「生きた」情報収集の結実ー『沖縄さかな図鑑』(下瀬環 著、沖縄タイムス社)

「生きた」情報収集の結実ー『沖縄さかな図鑑』(下瀬環 著、沖縄タイムス社)


『沖縄さかな図鑑』(下瀬環 著)が沖縄タイムス社より刊行されました。

著者の下瀬さんは、八重山地区を中心に水産物を調査されてきた方です。2018年刊行の『小学館の図鑑Z 日本魚類館』では、主にフエダイ科とフエフキダイ科の執筆を担当されています。

この図鑑の特性を簡潔に述べるならば、「研究者が現場で収集を続けたこの地域の『生きた』情報を、学術的な知見を土台に体系化したもの」ということになると思います。

「はじめに」から一部抜粋しつつ要約させていただくと、
●水産物=漁業、養殖業、潮干狩り、遊漁の対象ならびにそれらの活動中に目にする生物を掲載(全734種)。八重山地区で市場に出る水産物はほぼ網羅
●特に、八重山漁協における10年間の水揚げ・セリ市場調査、観察、聞き取りによる情報(水揚げ時期、出現頻度、大きさ、市場価値、利用、地方名など)を解説として収録
●分類・生態等の学術的な知見に加え、沖縄独特の雑学情報も加味

「お店の魚売り場、鮮魚店、直売店、公設市場、水揚げ市場などで水産物を調べる際に役に立つよう作った図鑑」であり、生物の正確な種名に加え「地方名、水産業、遊漁、沖縄文化との関連などについても」知識が得られるものです。

標準和名のないものや未記載種も掲載。魚だけでなく貝やエビ・カニ、イカ・タコ、海藻も網羅

標準和名のないものや未記載種も掲載。魚だけでなく貝やエビ・カニ、イカ・タコ、海藻も網羅

巻頭の読み物も充実です

巻頭の読み物も充実です

情報というものは誰かが収集・整理して記録しなければいつの間にか失われていきます。あらゆる分野の研究活動はそれを更新しつつ推進するものですが、下瀬さんが長らく取り組んでこられたような「地域の現場」の情報というのは特に失われやすい性質のものだと思います。
その意味で本書は生物学的にはもちろん、人類学的な面においても大きな意義を有します。今後、沖縄地方の水産業や生活誌について学ぶ方々にとっても大切な一冊になることと思います。

驚くべきことに、本書は写真も解説もすべて下瀬さんが撮影・記述されたものです。
僕が初めてお目にかかったのは、写真家の西野嘉憲さんに連れていただいて新川漁港での水揚げ・セリを見学に行ったときのことでした。白い長靴姿でトロ箱の間を忙しく歩きながら、魚の写真を撮ったり関係者の方に話を聞いていた姿をよく覚えています。その長らくの活動の結実に、いま改めて頭の下がる思いです。

通販はこちら→『沖縄さかな図鑑』