所与の現状をよしとして受け入れる思考
石垣島・前勢岳のゴルフリゾート建設計画に再考を求めるWEBキャンペーンに署名しました。
昨年9月に立ち上がっているキャンペーンですが、恥ずかしながら建設計画のことすら数日前まで知りませんでした。
予定地はラムサール条約登録地である名蔵アンパル(大きな干潟)に影響を及ぼしうる場所で、石垣島天文台のすぐそばでもあります。キャンペーン趣旨書で懸念されている通りリゾート開発には弊害もある場所だと思うのですが、現状はどうなっているんだろうと今さらながら検索してみました。
2021年9月7日の八重山毎日新聞の記事に「着工に大きく前進」とあります。土地利用調整計画に県が同意したとのことです。
制度のことはよく理解していないのですが、大雑把に言うと農地転用が認められたということのようです。土地の利用目的を農地からそれ以外に変更するのはハードルが高いと聞きますので、それをクリアしたというのは確かに前進です。
が、それは環境面の懸念とは関係がありません。
環境アセスメントの知事意見が県のホームページに公開されていました。
「事業計画、環境影響評価等の内容で整合が図られていないもの、記載事項に誤りがあるもの、根拠が不明なもの、具体的な内容が確認できないものなどが多く見られる」(令和3年6月14日の知事意見)。流し読みですが環境への配慮不足という再三の指摘で、こちらはとても芳しくは見えません。
これを見る限り計画が順調に運ぶとは思えないのですが、アセスメントがどの程度の厳格さと拘束力を持つのか私は知らないので、小さな対応を積み上げることでいつかはクリアできるのかもしれません。
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このような出来事に触れるたびに思うのは、私は「結局現状を所与のものとして常に上書きしつつ受け入れ、過去の経緯をリセットしてしまう」ということです。「私は」と書きましたが、ある程度普遍的な傾向ではないかと思っています。
今回のリゾート計画が影響するであろう名蔵アンパルに関して言うと、名蔵湾沿いを走る県道79号線は道幅が広く視界も開け、とても気分のいい道路です。ここを走るのが好きという方は多いんじゃないかなと思います。
ですがその「開通以前」を想像してみれば、道路計画が干潟に与える甚大な影響を懸念した人々がたくさんいたはずで、その懸念の少なくともいくらかは現実のものになったに違いありません。私はそのことを普段意識することなく、「この道気分いいなあ」とただ恩恵だけを受け取っています。つまり過去の経緯はリセットされ、現状が所与のものとして「0」になっています。
空港についても同じことが言えます。現在の新空港への移転発表から30年以上にわたる反対と計画変更の紆余曲折を経て、懸念された悪影響のいくらかは現実になったはずですが、私は現状を0だと思って便利に快適に飛行機に乗っています。
こういった認識でいる限り、どんなマイナスがあろうとそれが現状になった時点でリセットされて0になる。
私は今回の計画で0が-10になるのではと心配していますが、もし計画が実行されて数年も経てば上書きされて0になるのでしょう。そして次に同じような計画が持ち上がったとき、累積で-20になるとは考えず、また「0→-10」の心配をすることになる。実際には-100になっているかもしれないのに、いつまでも-10の認識だけを繰り返すということです。
0だと感じるのは、現状をよしとして受け入れているからでもあります。名蔵湾の県道からも新空港からも、「0だと感じる」だけでは申し訳ないほどの大きな利益を受けています。
今回のリゾート計画にも当然ながら経済面を始めとする利点はたくさんあるでしょう。実現された未来においてはそれが0の現状になるに違いありません。
しかし本当に0なのか。人の認識においてはリセットされたマイナスがその地に置き去りにされうること、ある程度はやむを得ないとしてもマイナスの値をできる限り小さくする必要があること。それらを改めて考えました。
(おわり)