雨煙

雨煙


マレーシアの夜の運転は怖かった。滞在を通して宿は市街地に取っていたので、日没ギリギリまで郊外のフィールドにいると帰路は必然的に夜になる。

日没後はたいてい激しい雨になった。
雨で路面が光ると車線はほとんど見えず、道路照明が切れたままになっている区間も多かった。そしてクアラルンプールで借りた車は年季のせいかワイパーの水切れが悪く、ブレードが通り過ぎるたびにフロントガラスがひどく滲んだ。ことによると動かさないほうが見やすいのではないかと思うほどで、実際試してみてもワイパーありのせいぜい僅差判定勝ちといったところだった。絶望的な視界の中で気づけばUターン車線に入り込んでいたり、工事用の通行止めブロックが突然目の前に現れたりした。
前の車だけが頼りと必死にテールランプにすがりつく。けれど地元の人々は慣れたもので、80km/h近い速度でびゅんびゅん飛ばす。ひるんでアクセルを緩めるとたちまち引き離されて何も見えなくなり、後ろから追い抜いていった車にまたすがりつく。繰り返すうちになんとか宿に辿り着き、胸を撫で下ろすという毎日だった。

ボルネオ島に移動してからは車が新しくなり、視界は大幅に改善された。また宿を固定したので同じ道を何度も通ることになり、次第に慣れて過度な緊張は解けていった。