南伊豆を旅する
Facebookでお友達の画家、Russell Willisさんにお誘いいただいて南伊豆を旅してきました。
ラスさんの絵のモチーフは植物に始まり爬虫類に両生類、昆虫と多彩なのですが、メインはなんといっても魚。私が「この人は自分と同じライン上で魚の絵を描いている」と感じた初めての方です。こういう見方や言い方にはステレオタイプが含まれるかもしれませんが、オーセンティックな博物画の発祥の地であるヨーロッパの方らしい対象物への繊細な眼差しと、日本らしい(ヨーロッパの博物画にはない)生き物を活き活きと描く視点がミックスされているように感じます。
英語ができない(特に、喋れない)私はラスさんとお会いすることに不安もあったのですが、ラスさんは英会話教室の先生でもあり、片言の英語から大意を汲むのはお手のもの。奥様の(こういうときに日本語は不便。「奥様」という言葉にはどうしても男が家長で…という前提が含まれてしまうのですが、ただただwifeという意味で言いたい)エミさんはパーフェクトなバイリンガルなので、その通訳のおかげもあって言葉のストレスなく楽しく過ごすことができました。
伊豆は河津までしか行ったことがなかったのですが、そこからさらに南になると風景がガラッと変わることを知りました。エメラルドグリーンの海に荒々しく切り立った岩や島が浮かんで、奇観と言ってよい風景を呈しています。砂や石の色は美しく、地形は変化に富んでいる。あちこちへと車で連れていっていただくうちに、南伊豆という土地の魅力にすっかり取り憑かれてしまいました。
事前にラスさんが「何が見たい?」と聞いてくださったときに、何でもいいけどとりあえず魚!みたいに答えていたのですが、子浦の港で早々と海面を泳ぐアオヤガラをゲット。初めて手にする魚でした。さらに海面からチョウチョウウオやハタタテダイがやすやすと見え、普段通い慣れている三浦との違いを感じました。ハタタテダイ、背びれとストライプが白いV字の形にくっきりと目立って、キビキビ泳ぐ様子がめちゃくちゃカッコよかったです。
夜はラスさんのお家で、ご家族のみなさんと一緒に楽しく食事をご馳走になりました。興奮しているせいかビールもワインもたらふく飲ませていただいたのですがいっこうに酔いきらず。おかげで日本の水族館のことや、どういうふうに考えて絵を描いているのかや、これまでの生い立ちのことなどはっきりとした頭でお話することができました。酔っ払ってしまって話するとせっかく盛り上がっても次の日に忘れてるなんてことがよくあるのですが、今回はそうならずに幸いでした。
ほんの短い睡眠だけを取って、翌朝は近所の漁港へイセエビの水揚げ(と、それに混じって獲れる魚)を見に。月が次第に円くなりつつあって、明るくては漁はダメだそうで(そんなことすら知らなかった)この日が次の闇夜まで休漁になる前の最後の日でした。そんなわけでやはり水揚げは思わしくなく、小振りのイセエビたちやメジナ、場所を変えて大きなブダイが揚がっていました。
その後、干潮に合わせてタイドプールへ。アゴハゼ、ヘビギンポ、カエルウオなどの磯の小魚たちをすくって楽しみました。ラスさんはとても素敵な水槽をお持ちなのですが、私も採集した海水魚を飼う水槽が欲しい!と心底思いました。
お昼は海鮮丼をご馳走になって、また海を見に。山道(遊歩道)を散策したり骨董品屋さんを覗いたり、神社(白濱神社)から裏の海へ出たりして、下田駅でお別れしました。すべての行程を、ラスさんとエミさん、それにとびきり可愛くて活発な8歳の娘さんと一緒に行動して、心から楽しくて胸いっぱいになる旅程でした。
感じたことはたくさんあったのですが、ラスさんとご家族のみなさんが本当に豊かな自然の中で、無理なく美しくのびのびと暮らしていること(もちろん、ただ毎日「美しくのびのび」だけなわけはないのですが)が何より印象的で、自分の今の生き方との比較は否応なく脳裡に突きつけられました。少し前から感じていたことでもあるのですが、どのような生き方を選んだとしても、自分に嘘を吐かず可能な限り自分の美意識に沿って暮らしていくことができる。仕事やお金の心配はもちろんとっても大きなものとしてあるのだけど、それを恐れるあまりたったの一歩も踏み出すことができずに自分の気持ちに蓋をして美意識を見て見ぬフリして生きているうちに、人生はあっという間に取り返しようもなく過ぎ去って終わっていくのだと思いました。改めて、自分がこれからどう生きるかということを深く考える機会になった、とっても大切な2日間でした。