クワガタの命の電池
11月18日未明、干潮の海から帰ってくると廊下に一頭のクワガタがうずくまっていました。
弱っているというほどでもなかったのですが体に力感がなく、何本かの跗節も失っていました。「助けたい」などと思ったわけではなく、ただ格好良さに惹かれた子どもの心で持ち帰り、しばらく飼ってみることにしました。
毎日朝食のキウイのへたを分け与えると、次の日にはぼろぼろに削った状態になっています。ゴールドキウイの鋭い甘さに、体の力も取り戻してゆくように見えました。
先日の九州旅行の際、どうしたものかと迷いました。11月下旬以降、石垣島は荒天続きで気温もグンと下がりました。いま外に放っても、無事あたたかい寝床に辿り着くのは難しいように思えます。
毎日のキウイは無理だけどがんばってくれと祈るような気持ちで飼育ケースを整え、昆虫ゼリーを多めに入れて家を出ました。
1週間後、帰って真っ先にケースを開けると土の上に体を曲げて突っ伏していました。脚も死んだ虫特有の、やや曲げて硬く伸ばした状態になっていました。やっぱりダメだったか、土を湿らせすぎたか、ケースをぴったり閉めない方がよかったか。悪いことしたなという思いで、見るのも辛くそのまま机の傍に放置していました。
翌々日、標本にするかとケースを開けてみると、思いがけないことに脚が動きました。生きてる!驚きとともに慌てて取り出し、綿棒で土を拭うとほぼ動かない大顎でなお挟もうとする動きを見せます。
生きてたのか!一昨日にきちんと見ていたらもっと早くどうにかできたかもしれないのにと後悔しつつ、冷凍してあったバナナをあたためて与えました。が、電池の切れかけたおもちゃのようにわずかに四肢を動かすだけ。とても何かを食べる力は残っていないようでした。
「砂糖水をあげてみたら?」と教えてもらい、なるほど簡単に吸えるものの方がいいか、と砂糖水に昆虫ゼリーを溶かしたものを与えてみました。ヒーターの熱がゆるやかに届く場所に置いて様子を見ると、電池切れかけの動きのまま、口を伸ばして食べ始めました!
子どもの頃から、飼っている生き物が死にかけた時にがんばって看病して息を吹き返したという成功体験がほとんどありません。それだけに今回もほぼ諦めていたのですが、今ももぞもぞ動いているのを見て一安心。この様子では遠からずやっぱり看取ることになるだろうけれど、もう少し一緒に過ごすことができるのだと嬉しくなりました。
脚が縮こまったまま動かなくなったり、体が少しずつ役目を終えていってる感じのするクワガタ。ついに死んだと思っていたら蘇生し、どう見ても死にかけの動きのまま不思議に生きながらえています。今日は昆虫ゼリーを溶かしたものを食べました。切れかけた電池をコロコロ転がして粘っている気分です pic.twitter.com/J2fntPI5ES
— 長嶋祐成 (@kuroNYU) December 30, 2020