カタクチイワシを釣りにいく

カタクチイワシを釣りにいく


カタクチイワシを見なければならない、と思い立ちました。

12年前のある日、中高時代の友人に誘われてほぼ子どもの頃以来の釣りに出かけ、カタクチイワシの感触に自分が釣り好きであったことを思い出しました。いま魚の絵描きであるひとつのきっかけもそこにあり、カタクチイワシはとても大切な存在です。

ネットの釣果情報を見ると、横浜の大黒海釣り施設で早めの時間帯に安定して釣れている様子。ならばと朝6時の開園めがけて行ってきました。

回数券で入場していく常連さんたちが早くから竿を出していました

カタクチイワシをはじめとする小さな青物を狙うにはサビキ釣りです。「アミエビ」と呼ばれる小さなオキアミを撒いて群れをおびき寄せ、擬似餌つきの針がたくさん並んだ仕掛けで一度に複数ずつ効率よく釣るものです。
群れが回って来ればとにかく簡単にどんどん釣れますが、それまではひたすら撒き餌しながら竿を上下に動かすだけ。周りの人はどうかなあとキョロキョロよそ見していると、遠く離れた桟橋の付け根の方で釣れ始めました。ほどなく僕の竿にもアタリが!

無骨な貸し竿に、小魚の繊細なアタリが遠くの足音のように伝わってくる

はやる気持ちを抑え、魚の口が切れてしまわないようゆっくり巻き上げるとカタクチイワシではなくサッパでした。拍子抜けしましたが実に美しいものです。

サッパ。名前の語感もよく合うスパッと潔いデザイン

再び仕掛けを沈めると今度は狙いどおりのカタクチイワシ!

繊細で弱い魚なので弱ってしまわないうちに写真を撮るか、群れがとどまっているうちにもう何尾か確保すべく釣りを続けるか。迷いが行動をオタオタさせます。釣り上げて竿を置き、針から外していると跳ねた魚が指先を縫って金網の隙間から海に落ちてしまう。置いた仕掛けがタオルにひっかかり、針のカエシがどうしても取れないのでタオルを切ったりカエシをペンチで潰したりする。観察ケースに入れた魚を這いつくばって撮影していると、勢いよく跳び出してレンズに海水がかかってしまう。慌てて拭っていると跳ねた魚がまた金網の隙間から逃げてしまう…という具合。

力感はまったくないのに、こんな感じでヒョワ〜ッと跳び出していってしまう
混乱ぶりがうかがえる写真がカメラに残っていました

カタクチイワシは本当に愛らしい魚です。
竿に伝わってくるアタリは本当に繊細で頼りない。手の中でくねくね、ひたひたと震える感触は絹を思わせるなめらかさです。

手触りが愛おしい
こちらはサッパ。尾びれの表面の光沢がすばらしい

2時間たらずでアミエビを使い切り、竿を仕舞いました。ずいぶんたくさん釣った気がしましたが、クーラーボックスに収めた数を数えるとカタクチイワシ16にサッパが4。これは持ち帰って食べてみることにします。

カタクチイワシは包丁を使うまでもなくスプーンでこそげるように三枚におろし、ネット情報にしたがって氷水で丹念に洗いました。サッパは包丁で。

カタクチイワシ
サッパ。皮目がきれいでおいしそう

すりおろしたにんにく、塩、オリーブオイルに石垣の島らっきょうと四季柑を添えて。おいしかったです。

8月末に予定している次の個展では2つのモチーフをテーマとし、カタクチイワシをその一角とします。おいおいご案内させていただきますので、ご覧いただけましたら幸いです。