幼魚サミットの帰り道

幼魚サミットの帰り道


服飾の学生だった頃、いよいよ卒業制作に着手という段になって自らのクリエイティブのコンセプトを教師全員の前でプレゼンする機会があった。大学で現代思想を専攻し、そこでの学びをファッションを通じて表現したいと思って専門学校に進学していた僕は、どちらかと言えば洋服そっちのけの、ただ自分の考え方の根幹を長々と説明するプレゼンを行った。うぬぼれが強いくせに自信がなかったし、そもそも求められているのはそういうのじゃないと分かっているつもりだった。だから無関心や酷評にさらされるものと身構えていると、意外にも先生方は真正面からプレゼンに向き合い、どうすればより伝わるか、どうすればクリエイティブへ昇華されるかを口々に意見してくださった。さらにその後のことだった。階段の踊り場で、直接授業は受けたことがないK先生とすれちがった。先生は70年代にフランスに渡り、ディオール等錚々たるアトリエでモデリストを務めた方だった。会釈すると先生は僕の目をまっすぐに見て、いつもの丁寧な口調で「あなたは才能がありそうですから。がんばってください」とおっしゃった。

鈴木香里武さんが館長を務める幼魚水族館の周年イベント「幼魚サミット」に参加登壇しての帰り道、18年前のそのことが脳裡に蘇った。

大テーマの「幼魚」とも、自身の肩書きの「魚の絵」とも直接関係のない認識の話を10分間するというのは、来場者の皆さんにとって退屈な時間になるかもしれないという怖さがあった(実際、僕の時だけ客席から子どもの泣き声が聞こえたような気がする)。けれどイベントを終えての控え室では、他の登壇者や関係者の皆さんから思いがけないほどに共感していただいたし、その後足を運んだ幼魚水族館でも来場者の方々からさっきの話が面白かったとお声がけいただいた。それはとても幸せで勇気づけられることだった。お誘いくださった香里武さん、石垣幸二さん、関係者の皆さまに改めまして心からお礼申し上げます。

18年前は学生らしい未熟な洋服で、今は魚の絵で、結局のところは同じことに取り組んでいる。僕が直面しているこの<せかい>、誰とも共有不可能な主観的世界でありながら、それを構成するのは一分の隙もなく「自分でないもの」=他者であるという不思議。それをどう生きるかということを、これからも考え、表現し続けたい。