別世界のような川を歩く
川歩きの機会が増えた。
冬の石垣島は常夏のイメージとは程遠く、連日重い曇天に雨まじりの北風が吹き荒ぶ。またこの時期は昼の干潮で潮位が十分に下がらないため、海歩きの範囲も限られる。そこで風も潮位もさほど影響しない川に足が向くようになった。
県道わきの山側の茂みから、水たまりのような細流が道路をくぐって海岸林の中へ消えてゆく。これまで何気なく見過ごしていたそんな場所が実は渓流域への入り口なのだった。
流れに足を踏み入れて藪をくぐり抜けると、樹冠に包まれてポッカリと開けたドーム状の空間に出る。水の音を背景に鳥や虫の声が響き、風が吹けばざわざわと葉が鳴る。
藪をくぐっただけでこれほどまでに隔絶された別世界に入り込めるとは!独り高揚していると、木々のすぐ裏を現実の塊のような車の音が通り過ぎる。
この先はどうなっているんだろう、どこまで進めるんだろうと心を躍らせながら、岩や流木の陰にごく小さな釣り針を差し入れてゆく。
狙いはカワアナゴ属の魚、テンジクカワアナゴとチチブモドキ。淡水域では前者が圧倒的に多く、海水の混じる汽水域になるとほぼ100%後者になる。
どの川でも同じ釣り方をしている限り、ほぼこの2種ばかりが釣れ続ける。それでも川歩きには常に何かしら予想や期待を裏切る出来事があって飽きることがない。仮に飽きるほど自分の中に蓄積ができたとすれば、今度は他の島や国で同じことを試すのがどんどん楽しみになる。
そうして自分の<せかい>の地図を描き加えたり描き直したり塗り足したりする、そんな生き方を少なくともしばらくは続けていたい。
(おわり)