展示のお知らせ:「ムギロとカタクチ」
東京・西荻窪での個展のご案内です。
ムギロとカタクチ
●会期: 2024年8月24日(土)〜9月1日(日)
26日(月)、27日(火)はお休みです。
●時間: 11:00〜18:00
●場所: HATOBA(MAP)
2022年の個展「bloom」の場所です!
初日の夜にはトークイベントを予定しています。
◯日時: 8月24日(土)18:30〜20:00
◯会場: HATOBA
◯参加費:1,600円(税込、レモネード付)
受付はWEBサイトにて予定しています。開始しましたらまたご案内させていただきます。→満席になりました。ありがとうございます。
テーマについては少し長くなりますが、以下に。
どうぞよろしくお願い申し上げます!
ムギロとカタクチ
人の数だけ<せかい>がある。
地図帳に載っている「世界」ではなく、ひとりひとりの前に広がっている<せかい>。
私たちはさまざまな手がかりによって<せかい>を理解する。サッカーが好きな人には、サッカーを通じて理解された<せかい>がある。ご当地マンホールの絵柄が好きな人、海辺を訪れては石ころを拾うのが好きな人、のれんは同じでも店ごとに異なる仕立てのラーメンを食べ歩くのが好きな人。おのおのの前に、自分だけのやり方で理解した<せかい>が立ち現れている。
この数年、僕は「ムギロ」と「カタクチ」によって自らの<せかい>を理解してきた。
ムギロゴビウス-海の水と川の水が混ざり合う汽水域に暮らす、ハゼの一グループ。石垣島のマングローブ林の片隅、どんぶり鉢ほどの水たまりで5センチたらずの小魚を釣り上げたのが、かれらとの初めての出会いだった。
一見何かがいるとも思えない水たまりに、逞しくも優美な魚がきらめくように息づいている。心の中でムギロ、ムギロと唱えながら方々にかれらを求め歩くうちに、僕の<せかい>が新たな意味を帯び始めた。石垣島のマングローブ林、東京のビル群を望む護岸わきの泥干潟、タイ・プーケット島の高床式家屋の下の水路、そんな何の関係もない地点同士が「ムギロがいた」という一点によって僕の<せかい>においてはつながり、網の目のように広がっていく。
また、カタクチイワシ。飛行機を乗り継いで17時間、たどり着いたスペインの市場でまず目に留まったのは、やや大ぶりであること以外は日本のものとまるで違わぬカタクチイワシだった。地球の反対側でも私たちは同じものを食べて暮らしている。拍子抜けする思いだった。
世界の海をまたいで、いずれも外見の似通った9種のカタクチイワシ属の魚がいる。それぞれの国で、地域で、人々はそれを食卓に囲んでいる。調度も間取りも服装も何ひとつ見知らぬ遠い異国のある家族が「カタクチを食べている」というただそれだけで、僕の<せかい>はその異国に想像を及ぼす道すじを獲得し始める。
他者は果たして実在するのか、という哲学上の問いがある。私たちの前に広がる<せかい>が自分だけのものでしかない以上、すべてはそのスクリーンに映された幻影ではないかという疑念を根本的に振り払うことはできないからだ。 けれど、ムギロとカタクチに理解を授けられた僕の<せかい>は、その向こうに見知らぬ土地を、そしてそこに暮らす人々の姿を常に見せてくれる。そこには他者が実在するたしかな手ざわりがある。その尊さに、僕は惹かれている。
(おわり)