同じ個体を何度も釣る


釣った魚の写真を見ていると、それが過去に釣ったのと同じ個体だと気付くことがあります。

2019年5月、初めてのトガリエビスを近くの港の隅で釣りました。
まだほんの12cmほどの子どもでしたが、成長すると40cmを超え、石垣島では「ハマサキノオクサン」という変わった通り名で呼ばれる高級魚です。いつか釣ってみたいと憧れていた魚だったので、こんな近くの港で、それも干潮になると水深が1mを切るような場所で願いが叶うとは思ってもみませんでした。

初めてのトガリエビス。2019年5月21日

初めてのトガリエビス。2019年5月21日

8ヶ月後の2020年1月、また同じ場所でトガリエビスが釣れました。
その頃には既に島のあちこちで何度か釣っていたのでさほど大きな感動もなく、そういえば初トガリエビスもここだったなと思い出しながら海に返しました。

ここでの2回め。2020年1月22日

ここでの2回め。2020年1月22日

さらに9ヶ月後、やはり同じ場所で今度はふた月にわたって連続で釣れました。いずれも20cmほどの大きさでした。
針をはずしながらこのふた月のは同じ個体なんじゃないかと思いました。港のその隅は、20cmのトガリエビスが複数尾住処を持つには狭すぎるように思えたからです。

2020年10月19日

2020年10月19日(通算3回め)

2020年11月12日

2020年11月12日(通算4回め)

家に帰って写真を見比べてみると、確かに同じ個体のようでした。やっぱりなと小さく満足するとともに、ここに居着いているのであれば、過去に釣ったのもひょっとすると全部同じ個体だった?という思いがよぎりました。徐々に大きくなっているのも成長ということで辻褄は合います。

半信半疑で遡るうちに、本当に同じ個体では…という「信」の割合がじわじわ広がってきました。
注目したポイントは2つです。

▼1つめのポイント=口のシミ
2回め以降、口の同じ場所にかすかに黒いシミのような痕があります(黄色の円の部分)。ただ、1回めのものには見られませんでした。

1回め。シミはなし

1回め。シミはなし

2回め

2回め

3回め

3回め

4回め

4回め

▼2つめのポイント=鱗の並び
全体的に乱れがなく目立った特徴が見当たらないのですが、頭頂部から肩にかけての並びは全4回を通じて同じであるように見えます。
◎緑色=右下がりで直線的に並び、間に上の行の鱗がほぼ入り込まない
◎水色=やや右下がりで「ソ」の字型に並ぶ
◎黄色=右上に急激に曲がり、背鰭第2棘の前方に達する

1回め

1回め

2回め

2回め

3回め

3回め

4回め

4回め


念のため、別の場所で釣ったトガリエビスたちを見てみます。
するとこの部分の鱗の並びには指紋のようにそれぞれ異なる個性があると分かります。

黄色が右上に曲がらない

黄色が右上に曲がらない

黄色が右上に曲がらない

黄色が右上に曲がらない

緑が直線的でない

緑色が直線的でない

全体的に乱れがある

全体的に乱れがある


黄色が右上に曲がらない

黄色が右上に曲がらない

緑色の配列が異なる

黄色が右上に曲がらない

黄色が右上に曲がらない

黄色が右上に曲がらない

黄色が右上に曲がらない


ほら個体ごとにこんなに違う、だから4回は全部同じだった!と言い切りたい気持ちにブレーキをかけ、冷静に「100%ではない」と言わなければならないのですが、これらのポイントからかなりの確度で同一個体だったと思っています。

そうであれば、このトガリエビスは少なくとも1年6ヶ月にわたって港の隅の同じ場所で過ごしながら成長していったことになります。海の中なんてどこまでも自由に泳げてしまいそうですが、魚の中にはこうして一箇所に居着くものがいることは、何度も同じ魚に会いにゆくダイバーの方には当たり前に馴染み深いことかもしれません。

その後、今日に至るまで再会はありません。
生きていれば、とてもあの狭くて浅い場所に居続けはしない大きさになっていると思います。何度も釣り上げておいて勝手に美化含みの思い入れを持てる身ではありませんが、いつかダイビングの最中に見た立派な個体のように、青く広いサンゴ礁に泳ぎ出て自分の巣穴を構えている姿を想像しています。

(追記)
「目の背部後縁にあるY字の黒点」についてご指摘をいただきました。確かに、これは上に挙げた2つのポイント以上に確度が高そうです!